マンションの給湯器の基礎知識
給湯器は、水を温めてお湯を供給するための住宅設備です。ここでは、マンションの給湯器の役割や基本構造、戸建てとの違い、寿命の目安などをわかりやすく解説します。
給湯器の役割と基本構造
給湯器は、水道管から送られてくる水をガスや電気などの燃料で加熱し、キッチンや洗面所、浴室など家中の水回りへお湯を供給する仕組みになっています。
マンションでは、建物全体で共有する給湯設備を地下などに設置している場合もあります。しかし、近年のマンションでは、設備故障時の影響を最小限に抑えるため、住戸ごとに個別の給湯器を設置するケースが一般的です。
もし給湯器がなければ、蛇口をひねっても冷たい水しか出ず、冬の洗顔や入浴も困難になります。給湯器は、快適な暮らしを支える欠かせない存在といえます。
戸建てとの違い
給湯器は生活に欠かせない設備ですが、設置場所は法律や安全基準によって制限されています。戸建て住宅では、この基準を守れば比較的自由に設置位置を決められるため、屋外を中心に好みの場所に設置できます。屋内設置も条件を満たせば認められており、設置の選択肢が広い点が特徴です。
一方、マンション(集合住宅)の場合は、構造上の制約が多く、自由に設置場所を変更することは困難です。
多くのマンションでは、あらかじめ決められたスペースに給湯器が収められており、交換時もそのスペースに合うサイズや排気方式の機種を選ぶ必要があります。また「給湯専用」「ふろ給湯器」など機能もさまざまですが、基本的には現在の給湯器と同じタイプへと交換します。
マンションでは、配管の都合や共有部との関係でタイプ変更は制限されることが多く、たとえば追い焚き機能の追加など大幅な変更ができない可能性が高いため注意が必要です。
給湯器の寿命と交換時期
マンション向け給湯器の寿命は、一般的に約10年とされています。各メーカーもこの期間を「設計上の標準使用期間」と定めており、標準的な使い方をした場合、10年程度で交換を検討するのが目安です。
また、10年を過ぎると部品の製造が終了している場合もあり、修理が難しくなる可能性があります。この観点からも、給湯器は安全面を考慮し、使用開始から10年に近づいたら交換を検討するのがおすすめです。
ただし、使用頻度が高い場合や寒冷地など給湯器に負担がかかる環境では、標準使用期間よりも寿命が短くなることもあります。そのため劣化のサインを見逃さず、故障や事故のリスクが高まる前に交換することが重要です。
マンションに多い給湯器の設置タイプ
マンションの給湯器は、玄関横のパイプスペース(PS)内に設置するタイプと、ベランダに設置するタイプのいずれかが一般的です。
交換の際は、建物の構造や排気経路が決まっているため、原則として現在と同じ設置タイプの給湯器に取り替えるのが基本となります。
PS設置型(パイプスペース設置)
PS設置型は、マンションの玄関横にあるパイプスペース(パイプシャフト)内に設置される給湯器です。
パイプスペースとは、上下水管やガス管などの配管が通るスペースのことで、給湯器のほかにガスメーターや水道メーターが設置される場合もあります。
PS設置型には、「PS標準設置型(前方排気)」「PSアルコーブ設置型」「PS扉内設置(PS前方排気型)」「PS扉内設置(PS前方排気延長型)」「PS扉内後方排気延長設置型」「PS扉内上方排気延長設置型」など、設置環境に合わせた複数の排気タイプがあります。限られたスペースに取り付けるため、交換時は基本的に既存のタイプと同じ形式の給湯器を選ぶのが一般的です。
ベランダ設置型
ベランダに設置される給湯器には、「壁掛けタイプ」と「据え置きタイプ」の2種類があります。
壁掛けタイプは、本体を壁に取り付けるタイプで、配管が本体下部から出ているのが特徴です。本体下部に十分なスペースがないと設置できません。
一方、据え置きタイプは給湯器を床に直接設置する方式で、壁掛けが難しい構造のマンションなどで採用されています。
給湯器の排気方式の違い
給湯器には大きく分けて「FF式」と「FE式」という2種類の排気方式があります。どちらもファンを使って強制的に排気を行う点は共通していますが、給気の取り込み方が異なります。
マンションや戸建てを問わず、基本的には現在設置されている給湯器と同じ排気方式の機種に交換するのが一般的です。方式を変更する場合は、ガス配管や給気・排気の経路を大幅に改修する必要があり、大がかりな工事になるため注意が必要です。
ここでは、「FF式」と「FE式」の特徴と違いを見ていきましょう。
FF式(強制吸排気式)
FF式給湯器(Forced Flue Balanced Type)は、給気と排気の両方を屋外で行う完全密閉構造の給湯器です。
燃焼に必要な空気は、専用の給気パイプを通じて屋外から取り込み、燃焼後の排気ガスは排気パイプを使って屋外へ強制的に排出します。
室内の空気をまったく使用しないため、排気ガスが室内に漏れ出す心配がなく、安全性が高いのが特徴です。
FE式(強制排気式)
FE式給湯器(Forced Exhaust Type)は、燃焼用の空気を室内から取り込み、排気のみをファンで屋外に排出する構造の給湯器です。
給気用の配管工事をすることなく、設置が比較的簡単でコストを抑えられる点がメリットです。一方で、燃焼時に室内の空気を使用するため、換気が不十分だと酸素濃度が低下し、安全性に影響するおそれがあります。そのため、FE式では設置場所に十分な換気ができることが重要です。
マンション給湯器の選び方
ここでは、給湯の機能・号数・メーカーの3つのポイントから、マンションで使用する給湯器を選ぶ方法を紹介します。
機能(オート/フルオート)で選ぶ
給湯器を選ぶ際は、まずお風呂の機能に注目しましょう。とくに「オート」と「フルオート」は、機能の違いによって使い勝手が大きく変わります。
オートタイプは、お湯はり・自動ストップ・追い焚き・保温機能を自動で行うタイプです。たし湯などは手動で操作します。一方、フルオートタイプは、オートの機能に加えて、たし湯や配管洗浄も自動で行います。利便性が高い反面、本体価格はオートタイプよりやや高めです。
そのほか、「給湯専用タイプ」や「給湯暖房熱源機タイプ」もあります。給湯専用タイプはお湯を作る機能に特化しており、自動お湯はりや追い焚き機能はありません。給湯暖房熱源機タイプは、給湯や追い焚きに加え、温水を利用した床暖房や浴室暖房乾燥機にも対応できる高機能モデルです。
号数で選ぶ
給湯器を選ぶ際は、給湯能力を表す「号数」も重要なポイントです。号数は、水温+25℃のお湯を1分間に何リットル出せるかを示しています。たとえば、1分間に24リットルを出せる機種は「24号」と呼ばれます。号数が大きいほど、一度に使えるお湯の量が多くなります。
マンションで一般的に使われる号数は、16号・20号・24号の3種類です。家族構成やお湯の使用状況に合わせて、適した号数を選びましょう。
おおよその目安は以下のとおりです。
| 号数 | 使用の目安 |
|---|---|
| 16号 | 1人暮らしなど、同時に複数箇所でお湯を使わない場合 |
| 20号 | 2人暮らしなど、比較的お湯の使用量が少ない家庭 |
| 24号 | 4人家族など、複数箇所で同時にお湯を使う家庭 |
なお、マンションでは設置スペースや配管の太さの制約により、号数を大きく変更できない場合があります。そのため、交換時は基本的に現在使用している給湯器と同じ号数を選ぶのが一般的です。
メーカーで選ぶ
家庭用給湯器の主要メーカーは、リンナイ・ノーリツ・パロマの3社です。いずれも国内シェアの大部分を占めており、信頼性の高い製品を提供しています。性能や耐久性、故障リスクなどの基本的な品質に大きな差はなく、どのメーカーを選んでも一定の安心感があります。
【メーカーの特徴】
| メーカー | 特徴 |
|---|---|
| ノーリツ | 省エネ性や衛生・安全機能に優れており、UV除菌ユニットや見守り機能などを搭載しています。 家族の健康や安心を重視する方に適しています。 |
| リンナイ | 高品質で多機能な製品が揃っており、ウルトラファインバブルやエアバブルテクノロジーなど、快適性を高める機能が充実しています。 |
| パロマ | スタイリッシュなデザイン性と給湯能力セレクト機能などの省エネ機能が特徴です。 IoT機能を備えたモデルもあります。 |
一部のPS設置型を除けば、異なるメーカーの機種への交換も可能です。ただしサイズや配管位置が異なる場合があるため、設置前の確認を忘れないようにしましょう。
マンション給湯器の交換時期とサイン
給湯器は生活に欠かせない設備ですが、故障のサインを見逃すと思わぬトラブルや事故につながる可能性があります。交換の目安は、見た目や音・ニオイ、使用中の不具合などから判断できます。
- 目視での確認
排気口周辺のさびや水漏れ、エラーコードの表示が交換のサインです。 - 音やニオイでの確認
通常時より異常に大きな音や普段と違う異音、ガス臭や焦げ臭さ、煙の発生が危険信号です。 - 使用中の不具合
お湯の温度が安定せずぬるくなる、使用中に水になる、蛇口を開けてもお湯が出ない、追い焚きができない、お湯張りの水位が安定しない、といった症状も交換のサインです。
これらのサインが出た場合は、給湯器の交換を検討するタイミングです。ガス漏れや不完全燃焼など重大な事故のリスクもあるため、異常を確認したらすぐに使用を中止してください。
給湯器は長く使える設備ですが、寿命を超えた状態で使用を続けると安全面や快適性に影響します。日頃からサインをチェックし、異常が出たら早めに交換を検討しましょう。
マンション給湯器交換の流れ
マンションの給湯器を交換する場合、賃貸と分譲で手続きの流れが異なります。賃貸では、管理会社や大家に連絡すれば、業者とのやり取りは管理会社が代行してくれることが多いです。一方、分譲マンションでは給湯器の所有権は住戸所有者にあるため、原則として交換手続きを自分で行う必要があります。
給湯器交換を業者に依頼する場合の一般的な流れは以下のとおりです。
現地調査:設置状況や排気方向を確認
給湯器を交換する際は、まず設置場所を確認することが重要です。給湯器には、燃焼のための給気・排気方法に応じた仕様があり、設置場所に合わせた機種が用意されています。交換時は、既存の給湯器と同じタイプの取り付けが一般的です。
マンションの場合、すでに紹介したとおり、大きくPS設置型とベランダ設置型の2種類があります。PS設置型は、さらに細かく分かれます。
- PS標準設置型:排気を前方に出すタイプ
- PSアルコーブ型:排気を側方に出すタイプ
- PS扉内設置型:本体が外から見えず、排気は前方・上方・後方などの方向に出すタイプ
ベランダに設置されている場合も、同じタイプの給湯器を選ぶことが原則です。現地調査で設置状況や排気方向を正確に確認することが、スムーズな交換につながります。
見積もり・機種選定:条件に合う給湯器を決定
次に、設置条件に合った給湯器の機種を選びます。現在の給湯器が「給湯専用」「ふろ給湯器」「給湯暖房熱源機」のどのタイプかを確認し、給湯能力を示す号数も適切かどうか判断します。マンションの給湯器は、設置スペースや配管の制約により、交換できる機種や号数が制限されるケースが少なくありません、そのため、これらの条件に合う機種を選ぶことが基本となります。
また、交換にかかる費用は給湯器本体の価格に加え、工事費や配管部材、古い給湯器の処分費などを含めたトータルで見積もりを出してもらいましょう。機種選定の際は、費用も合わせて確認することが大切です。
工事日の調整と管理組合への連絡
給湯器の機種が決まったら、工事日を調整します。マンションでは給湯器の交換が専有部分の工事であっても、共有インフラに影響する場合があるため、管理会社や管理組合に事前連絡を行うことが大切です。
場合によっては「専有部分の修繕工事を行う」という申請書の提出が必要になることもあります。提出の有無や必要書類は、管理規約に記載されているため、事前に確認して必要書類をそろえて提出しましょう。
交換工事:古い給湯器を撤去し、新しい機器を設置
給湯器の交換工事では、業者が古い給湯器とリモコンを取り外し、新しい機器を設置します。一般的な交換作業は給湯専用で1〜2時間、ふろ給湯器で2〜3時間、給湯暖房熱源機では4〜5時間程度です。作業時間は配管やリモコンの数、床暖房接続の有無によって変わります。
業者への依頼から実際の交換までの期間は、在庫状況などにもよりますが、通常10日前後で完了します。在庫取り寄せや受注生産の場合は、1か月程度かかることもあります。
動作確認・アフターサポート
給湯器の交換後は、住戸所有者の立ち会いのもとで業者による動作確認を行います。お湯の出具合やリモコン操作などが正常かをチェックします。
業者や製品によっては、一定期間の無料点検や延長保証が付いていることもあるため、アフターサービスの内容を必ず確認しましょう。
施工後すぐに不具合や故障が発生する場合があるため、保証制度やメンテナンス対応が充実している業者を選ぶと安心です。
マンション給湯器交換で信頼できる業者の選び方
マンションの給湯器交換では、管理規約や設置スペースの制約が多く、信頼できる業者選びが重要です。施工実績や対応力、見積もりの明確さなどを確認し、安心して工事を任せられる業者を選びましょう。
現場対応経験が豊富な施工店を選ぶ
マンションの給湯器の交換工事ではさまざまな制約があるため、実績や経験が豊富な業者を選ぶことが大切です。対応経験が豊富な施工店を見極めるためには、公式サイトや口コミサイトなどで、これまでの施工件数や施工例の写真、ユーザーレビューを確認するとよいでしょう。
また交換工事は電気やガスを扱うため、「給水装置工事主任技術者」や「電気工事士」「液化石油ガス設備士」などの資格が必要になるケースがあります。
経験だけでなく、有資格者が施工を担当するかも忘れずに確認しましょう。
マンション規約やPS寸法の確認を怠らないかを確認
信頼できる業者を選ぶうえで、マンション規約や設置スペースの確認は欠かせません。分譲マンションでは、共用部分にも関わる工事やガス機器の仕様変更などに制限がある場合があり、管理規約に基づいて申請が必要になることがあります。
また、パイプスペース(PS)の寸法や排気方向も確認し、交換予定の給湯器が確実に収まるか判断しなければなりません。
業者がこれらの条件を把握したうえで、工事計画を立てられるかどうかがポイントとなります。
相見積もりで費用を比較する
給湯器の交換費用は、本体価格に加えて配管部材や工事費、処分費などもかかるため、最終的な請求額を細かく確認することが大切です。見積書の内訳が明確な業者は信頼性が高く、不透明な追加費用の発生を防げます。
なお、料金が極端に安い場合は、必要な部材が省かれていたりアフターサービスが不十分だったりする恐れもあります。そのため複数の業者から見積もりを取り、トータルコストを比較するようにしましょう。
まとめ
マンションの給湯器交換では、設置場所や給湯器の種類、マンションの管理規約などを事前に確認することが重要です。現地調査で設置条件を把握し、号数やタイプが合った給湯器を選定する必要があるからです。
トラブルを防ぎ、安心して交換を進めるためにも、ぜひ今回紹介した選び方のポイントや注意点を参考にしてください。
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